地方DXとは?必要とされる背景や進めるメリット、事例も紹介

DXの推進と言えば、大都市にある企業や自治体が行っているイメージがあるかもしれません。しかし、地方の企業や自治体でも、DXの推進は重要です。地方で大きな問題となっている少子高齢化による労働力不足、若年層が魅力を感じる雇用の受け皿不足などを解決するには、デジタル化やDXの推進が必須だからです。そのような課題解決のための地方におけるDXの推進が「地方DX」です。

ここでは、地方DXの概要とメリット、国の取り組みと、地方DXの事例を紹介します。

地方DXとは

地方DXとは、文字どおり地方におけるDXのことです。

地方における社会システムにデジタル技術を導入し、変革して、経済や市民生活の質を上げる取り組みをいいます。しかし都市部に比べて人材が不足しており、デジタルリテラシーが概して低いところも多く、DXを推進しにくいところが多い傾向にあります。

内閣府では地方DXを「地域経済のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」と呼び、次のように定義しています。

「リモート対応や分野間連携をはじめデジタル技術の力を徹底的に活用し、新たな地域経済づくりに取り組む」

引用元:  新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用した「新たな日常」に対応するための政策資料集|内閣府

地方DXと混在されがちな取り組みに、地方の自治体が行う「自治体DX」があります。これは地方自治体が業務をデジタル化して行政サービスを向上させ、住民の利便性を高めることを言います。

自治体DXは地方自治体が行う取り組みです。地方DXは地方自治体のみならず、地方の企業や教育機関など、その地域におけるあらゆる組織のDXへの取り組みを指します。そのため、地方に該当する自治体における自治体DXは、地方DXでもあります。

なお、自治体DXは、国が進めるデジタル・ガバメントの取り組みにも含まれるものです。デジタル・ガバメントについて詳しくは、「デジタル・ガバメントとは?行政サービスの変化と企業に与える影響」をご覧ください。

地方DXが必要とされる背景

地方DXが必要とされている背景には、次のようにデジタル化・DX化における地域格差が拡大したことへの、危機感の高まりがあります。

日本企業においては、他の先進国と比較し、DX推進の遅れが課題となっていました。日本企業の競争力を向上させ、「2025年の崖」を回避するには、DX推進は必須です。

そのため、国ではさまざまなDX推進支援策を実施。それが功を奏してか都市部では徐々にデジタル化・DX化が進みつつあったところ、コロナ禍を機に、その流れが一気に加速しました。

これは日本経済においては望ましい変化であるものの、なおデジタル化が進まない地方と都市部の地域格差が一層広がってしまう結果にもつながってしまいました。

そのため地方や地方自治体では、デジタル化・DX化における地域格差についての危機感が高まり、地方DXの重要性が叫ばれるようになってきた経緯があります。

また、都市部に比べて一層深刻な少子高齢化や若年層の雇用の受け皿不足などの課題解決につながることも、地方DXが必要とされるようになった理由の一つです。

2025年の崖については、「2025年の崖とは?意味と企業への影響、克服するためにすべきことを紹介」をご覧ください。

地方DXへの国の取り組み

地方だけでなく、国も地方DX推進を重要課題とし、さまざまな取り組みを行っています。代表的なものを紹介します。

デジタル田園都市国家構想

地方自治体だけでなく、国でも地方における現状を重要な課題と捉え、「デジタル田園都市国家構想」を掲げています。デジタル田園都市国家構想について、内閣府では次のように示しています。

「デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残されずすべての人がデジタル化のメリットを教授できる心豊かな暮らしを実現する」

引用元:デジタル田園都市国家構想|内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局

デジタル技術を利用して、地方の良さを活かしながら課題を解決し、地方活性化を図るという構想です。地方の豊かさと都市圏の利便性を両立する、魅力溢れる新たな地域づくりを目的としています。

参考:デジタル田園都市国家構想|デジタル庁

経産省による地方DX推進

経済産業省でも、次のように地方DXを推進するための取り組みを行っています。

  • 地域DX推進ラボ

各地域のDX実現に向けた取り組みを推進するため、経済産業省とIPAが制定した制度です。地域の経済発展とウェルビーイングの向上を目指す取り組みを「ラボ」として選定し、サポートします。

地域DX推進ラボ公式サイト

  • 地方版IoT推進ラボ

IoTに限らず先進技術によって地方の課題を解決して経済発展を推進するため、経済産業省とIPAが設立した制度です。全国各地の取り組みを選定のうえ支援します。

地方版IoT推進ラボについて

地方DXが進まない理由

現在地方DXが進んでいないのには、次のような理由が考えられます。

  • DX人材の不足

DX推進に必要なスキルを持つ人材は、まだまだ不足しています。都市部でも不足しているところが多い中、そもそも労働人口の少ない地方では一層人材確保が困難です。DX人材の不足が、地方DXが進まない大きな理由です。

DX人材に求められる役割・スキルなどについては、「DXを推進するために必要な人材と自社でDX人材を確保するためのポイント」をご覧ください。

  • アナログベースな業務が多い

地方ではこれまでデジタル化のニーズはそこまで高くありませんでした。紙の書類をベースにしたアナログな業務が残っていることで、業務負担が大きく、変革の余裕がもてません。

  • 地方特有のその他の要因

地方は情報の量が都市部に比べて少なく、デジタル化・DX化の重要性が多く語られてはいないと考えられます。また、一般的にデジタルとは縁が薄い第一次産業従事者が多かったり、高齢化が進んでいたりといった環境も、DXが進みにくい要因の一つと考えられます。

地方DXに取り組むメリット

地方DXの推進は、地方における課題の解決になることは先に触れましたが、具体的なメリットには次のようなものがあります。

  • 地域の景気浮揚

地方DXが進むと、これまで都市部や海外に外注していたシステム構築を社内やその地域の中で内製することができるようになります。地域外への資金流出を防ぎ、地域内の経済活動を振興して景気浮揚につながることが期待できます。

  • 働く場所の確保

デジタル化やDX推進により、地方にもデジタル人材が必要です。しかし、前述のとおり、デジタル人材の確保は極めて困難な状況です。逆に言うと、これまでデジタルとは無縁だった人でもリスキリングによりデジタル人材となることで、活躍できる可能性があるということです。中高年の新たな働く場所の確保や若者の流出防止、UターンやIターンの増加などにつながることが期待できます。

リスキリングについて詳しくは、「リスキリングとは?DX推進のための人材確保に不可欠な戦略」をご覧ください。

  • 業務効率化の導入による労働力不足への対応

デジタル化により、多くの企業で業務効率化や手続きの効率化を進めることができます。業務システム、RPA、AIなどのITツールにより社員の作業時間を大きく削減し、労働力不足に対応することが可能になります。

  • テレワークの推進

デジタル化によりペーパーレス化が推進され、テレワークも導入しやすくなります。多様な働き方が可能になり、若年層の流出を抑えることにもつながります。

地方DXの事例

地方DXには、次のような事例があります。

北海道北見市

北見市では、職員の業務効率化と利用する市民の利便性向上のため、市役所の窓口業務について、デジタル化を進めました。以前は窓口業務を紙での受付と職員に手入力に頼っており、来庁者への対応や案内など、職員の経験値によって差がありました。そこで、窓口支援システムを導入し、「書かない・ワンストップ・押印不要」の受付をスタート。職員の経験に左右されずスムーズに業務が進むようになり、利用者の利便性向上と業務効率化による職員の負担軽減を実現しています。

茨城県境町

自動運転車を提供するBOLDLY株式会社や自動運転実証車両開発支援などを行う株式会社マクニカと協力し、茨城県境町では、町営バスを自動運転で走行させています。町は交通インフラが弱く、生活をする上で、高齢になっても自動車免許の返納に踏み切れない高齢者も多くいました。そこで町長が目をつけたのが、自動運転バス。自動運転バスは、人材不足の中運転手の確保も必要ありません。自動運転バスが路線バスとして、定時・定路線で定常運行するのは国内初で、自動運転バスは地域の課題解決と同時に、町の知名度向上にも貢献しました。

福岡県直方市

直方市ではIoT推進ラボを設立し、市のあらゆる産業分野におけるイノベーションを推進する後押しをしてきました。その一つとして、九州大学との連携により、さまざまな地域の課題解決に取り組んでいます。一例として、昨今増えている集中豪雨や台風における水害対策が、地域の大きな課題になっていました。これまで遠賀川流域に設置されている樋門の制御・監視は作業者が主導で行っており、安全面での懸念がありました。そこで、樋門の制御・監視を遠隔から行うシステムを研究開発し、作業者の安全を確保しながら、効率的に住民を水害から守る仕組みを実現しています。

高知県×高知大学など

高知県は、JA高知県や高知大学、高知工科大学などと連携し、「IoPクラウド(※)」を活用した取り組みを行っています。作物情報や環境情報などのデータベースとAIの組み合わせにより、生産管理の最適化と高精度の出荷時期予測などが可能となりました。これにより、県内農家における業務効率化、生産性向上へとつながっています。

※県内の農業ハウス内機器のデータや農産物の出荷データなどをリアルタイムで集約するクラウド型データベースシステム

地方DXを進めて地域格差の解消につなげよう

都市部と地方では、デジタル化やDX推進のレベルに大きな開きがあり、暮らしの利便性や働きやすさなどにも大きな格差があります。地方のデジタル化やDXを進めることで、格差を小さくしていかなくてはなりません。 一方で、DX人材が不足していることもあり、いきなり大掛かりにDXを進めることは困難な場合もあるかもしれません。現在は地域によるDX格差の解消に向け、国や自治体の取り組みも進んでいます。それを上手に利用して、まずは身近な業務のデジタル化、自動化などから取り組み、DX推進への第一歩を踏み出していってはいかがでしょうか。